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中田雑文集

2)構造上安全な建築物とは?                  中田捷夫

1.設計で考えている安全の意味は?

建物を作る目的が「自然の災害から人命と財産を守る」ことにあるとすれば、建築物は考えられるあらゆる災害を想定してそれらに耐えることが出来る性能を備えていることが期待されるでしょう。

 もし、自然界に起きる地震、台風、降雨などの大きさや時期が正確に予想できるなら、建物の性能を、それらによって使用不能になったり、倒壊したりすることのないように確保することはかなりの精度で可能になってきました。実際の建物を作って荷重を作用させるのではなく、コンピュータで再現して確認することが可能になったからです。

 しかし、自然界の変化は大変複雑で、残念ながら現在の科学で総てを予測することは出来ませんし、建築に影響を及ぼす因子の数や種類は膨大で、実際の検討はそれらの中から大きな影響を持ちそうな因子を抽出して計算し、見当を付けているのです。

 どの因子を選んで、どの程度の性能にするのかは人間が決めることですので、どのような設定も可能なのですが、何が起きるのかは人間の想像が及ばない領域なので残念ながら「完全な安全」という概念は成立しないと言うのが正しい表現です。

 とは言え、地震は確実に起きていますし、毎年台風がやってきます。局地的な降雨も毎年起こり、水害や土石流が発生しています。環境変化が起きることについては疑うまでもない事実ですから、設計としては「最もありそうな規模」の地震や台風の規模を想定して、性能を決めているのです。ただこの「ありそうな規模」も古来不変のものではなく、大きな地震があるたびに改められてきましたので、現在定められている地震や法で定められている地震力も今後更に高められることがないとは言えません。

 

2.設計で定める安全確保の方法は?

 では、目標とする地震の大きさが決められたとして、設計では、「最もありそうな」地震に対してどのように安全な性能を確保しようとしているのでしょうか?

 設計と言う行為の内容は、想定される地震や台風などによる外力の大きさが決まると、次に建物を構成している柱や梁などの躯体が壊れないかの確認作業があり、最後に建物の一部が被害を受けても建物全体が倒壊しないことの確認作業を行います。これらは、実際の建物で確認することは出来ませんので計算によって再現するのですが、計算では建物を構成する総ての要素を組み込むことは出来ませんし、設計に時点では実際に作用する荷重など決められない要素もあるので、計算はあくまで理想化された計算モデルで近似化することが必要となります。そして、決められないことに対しては、工学的な判断に基づく「余裕率」という考え方でカバーし、本当に起きていることを「再現」することは出来なくても安全が確保できるように配慮しているのです。計算がより正確になりますとこの「余裕率」がだんだん削られて、「ありそうな」外力に限りなく近づいてゆくのですが、仮定条件そのものが変わると途端に「不適格」な建物になってしまうので、設計では十分な余裕を見込んだものに設定されていることが大切だと言えましょう。

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