株式会社中田捷夫研究室

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中田からのメッセージ

・①創造と想像 

     近代技術の発達は、およそ考えられる物で実現できない物はないといわれるほど高度な創造力を備えるに至ったが、何を作るべきかという命題に対する回答は、はなはだ発想に乏しい。建築の耐用年数は50年、100年と伸びたとしても、その時の社会の中でそれらの建築がどのような存在であるのかは、ひとえに実現に携わる人たちの「想像力」に支配される。目先の需要やコスト重視が必ずしも社会が期待する成果に繋がらないことを理解すべきである。

 

・②建築の資産価値について

     我が国の住宅は、竣工した翌日から価値が下がり、木造においては30年後には価値がゼロになり、売却する時は解体費を払って更地にしないと売れない、むしろマイナスの資産と化してしまう。一方、販売時には百年住宅などという、耐久性の高さを売り物にしている住宅がある。日本の住宅は、敷地の狭小性の故か、間取りをきめ細かく作りこんでしまう傾向にあり、そのことが転用の自由度を著しく狭め、販売の障害になる。金融機関は生命保険付きの個人に融資はするが、建物に融資をしない。欧州型の住宅と異なる訳は?

 

・③建築に求める価値とは何か

     近年の建築に求められる条件は、建設価格である。思い切り広い建築面積と工事金額で建築の仕様が決まる。最も単価の安い素材で、最大面積の建築を作り上げることが望まれる。最近の新素材の大多数は外見的な機能が重視され、素朴ではあるが環境に優しい素材が必ずしも評価されてはいない。年を降るにつれ良さが増す、本格的な建築が評価される社会は難しいのだろうか?

 

・④構造設計者の社会的役割について

     建築に要求される構造性能は益々高くなって、設計内容は益々複雑化している。設計過程の法的な要求に対する厳密性は格段に厳しくなって、構造計算の荷重の設定から部材の許容応力度まで、すべての部材が一つの数字の食い違いもなく整合していなければ、建築確認が下りない現実は、扱っている建築という規模とパーツの数を考えるとき、如何に意味のない事であるか痛感する。そして、法適合が、建築の性能を保証する物でないことがいかに周知されていないのかを痛感する。にも拘らず、構造設計報酬は、意匠設計、設備設計より低い事はあまり知られていない。
 

・⑤都市景観と建築について

     都市の景観は、そこに住む人々の文化の集約であり、長い時間の試練を経えて生き残った掛け替えのない資産である。歴史的に保持されてきた景観をたった一つの巨大建築が消し去ってしまう行為は、厳に慎まねばならない。新しく生まれる建築自体が如何に美しいかどうか議論する以前に、失ってしまう価値の評価が不可欠である。なんでも作れる技術の開発がその行為を助長しているのなら、技術の進化は評価できない。

 

・⑥近代建築の失ったもの

     近年の数値計算の技術は想像できないほど高速化、大型化して、人間の想像できないほど「計算できる」。建築を構成する何万、何十万という部品、一本のボルト、一本の釘の応力まで計算することができる。与えた条件をほぼ「完璧」に計算できる。想定する与条件のもとで完全な部材設計が可能になった。一見高い精度の設計になっているように見えるが、想定しない条件に対しては、全く無防備である。実際の建築には、計算で要求されない「冗長性」と「強靭性」が必要なのに。

 

・⑦構造計算の意味するもの

     法適合性と建物の強さは必ずしも同一の概念ではない。法はその建物を社会に送り出すための最低の性能を確保するための手順を示したものであるのに対して、理屈っぽく言えば、建物の強さは「分からない」と言うのが正しい。地震の揺れは飽くまでも想定であり、解析モデルも理想化されているので、実際起きる建物の挙動を再現しているのではない。実験値と解析値があっていたからとて、想定が誤っていれば意味を失う。計算で破壊を論じることには困難が付きまとう。

 

・⑧設計法と法の体系

     建物を構成する素材は単一ではなく、多くの素材が混在している。多彩な意匠の要求を満たし、合理性の高い構造を実現するためには、材料の適材適所は欠かすことの出来ない選択である。しかし、法体系は、材料種別で構築されており、素材の混用は大変不自由である。設計資料の取りまとめを行ってきた建築学会においても、委員会はそれぞれ構造種別ごとに構成されており、設計基準もその流れで制定されている。以前木質ハイブリッド構造総プロが実施されたがその成果は反映されていない。

 

・⑨木質素材の利用について

     木質構造にあっては、鋼やコンクリートとの複用が木材利用に際して不可欠である。木質構造の飛躍的な拡大が期待されるにも拘わらず、現在の法体系は非常に不自由である。それに加えて、現行法体系で対応できない構法や複合材料の使用を可能にする大臣認定ルートの整備は急務であり、基準法の改定が行われたが、実際の運用が実現には至っていない。木質構造の設計は、在来木造を対象に展開されており、壁量計算では対応できないのが現実である。設計者や審査する人材も不足しており、総合的な展開が必要である。

 

・⑩建設が進まない現実

     最近、建築が不自由である。施主の希望する設計内容と建設コストが合わないことが多い。設計が完了しても受注する建設業者が居ない。業者に現場を動かせる技術者が不足している。材料の高騰や納期の延長で工期が読めない。原因は東日本の復興と消費税の駆け込み需要だといわれる。建設業界の需給が狂乱状態に陥ってしまったかの如くである。更に過去の不況時に建設業界がスリム化してしまい、受注能力が低下してしまったこと、技術者の高齢化によって実働人口が減少していること等が重なったことも一因である。単に木造化推進を唱えても道のりは遠い。

・⑪大型木質構造の接合部について

    木質構造の実現上、最も大切なのは接合部である。部材の性能は、乾燥技術の構造やグレーディングと集成材の普及によって、かなり一般的に、均一な性能を得ることが出来るようになった。また、これらの部材によって組み立てられた架構が保有する耐力の計算方法は、RC造やS造の計算手法を適用することによって評価することができる。しかし、木質部材を接合するための手法―接合具―については全く進化が見られない。接合具の在り方について考える。

 

・⑫災害応急住宅について考える

    緊急性を要するあまり、居住性の不十分な住居や耐久性の劣る住宅の建設が正当化されてはならない。応急住宅は復旧住宅と一対の概念でなくてはならない。

    災害が発生してから応急住宅の供給までの時間を短縮するために、国内の住宅関連業者を組織化して情報管理し、設計資料の標準化を図って、全国から必要な住宅部品の調達を図れるようにし、特定のビルダーに丸投げしてしまうような発注を排除する。部品の形状、性能の標準化、標準価格の設定を行い、公開する。カタログデザインの可能性を模索する。

 

・⑬木質多層建築の未来

    最近話題になっている「多層木造」は話題が先行して、木質構造普及の代名詞のように報じられている。建築の可能性を左右する要素は、強度性能と耐火性能であるが、高強度接合金物と集成材の製作技術の発展で強度性能的には高層化に対応できるようになってきたが、耐火性能については現時点では多くの解決すべき問題が残されている。木材を燃えないようにすることは「木でなくなる」事を意味するので、構造部材の外側を石膏ボードで包んだり、燃え残り芯材を挟み込んだり、コンクリートの燃え止まり層を設けたりして、建築基準法で言う「耐火構造」に適合するように工夫している。これらの構法の耐火性能は実験によって確認されたとしているが、実験で確認できる条件には限界があり、想定できない状況に遭遇する可能性は極めて高い。木質構造の技術開発は停滞しており、新しい可能性を求めることは推進されてよいが、開発のための開発にならないよう、ゆっくりでも良いから確実な開発に挑んでもらいたいものである。

 

・⑭CLTの利用について

    CLT (cross-laminar timber) のJAS認定が下りて、建築基準法下での使用が可能になった。挽板の向きを90度ずらせて、接着剤によって互層に圧着し、平面状の集成板を構成するこの部材は、構造用の合板の厚板状の形状を有して、今までにない構造部材として期待されてきた。これを推進するために「CLT協会」が発足したことに期待したい。

    CLTはヨーロッパでは一般的な構造部材として広く普及しているので、我が国のJAS認定はむしろ遅すぎたのかもしれない。ただ、この部材の国内での生産は、特定の業者に限定されていて、設計者が自由に利用できる環境でないので、普及のためには広く門戸を開放して、欧州産の部材の利用も合わせて推進したいと思う。

    CLTが欧州で広く活用されているのは、欧州では地震が少なく、壁柱に作用する水平力が大きくないことが原因かと思われる。CLTでは隣接する挽き板同士は接着されていないので、構成される面は格子状で斜め45度方向の剛性が小さくなる傾向にある。CLTを壁柱に使うときには配慮が必要であろう。

    幅の広い壁柱で構成する壁式構造のような躯体で住宅を計画したが、確認機関で建築基準法上の条文に該当する規定がないことを理由に受け付けてもらえなかった。新しい部材がJASで認定されても、性能の法律上での確認ルートが用意されていなければ普及することは難しい。「使いやすい素材」にすることが大切である。

 

・⑮「木造力」を身につける

    関東震災と太平洋戦争を経験した日本は、「耐震」と「耐火」が最も重要な課題であり、災害を経験するたびにこれらの規定の整備が行われた。素材として「鋼」と「コンクリート」が主力となり、燃える素材である「木」は防火地域では禁じられた。これ以来、「木」は住宅程度の規模の小さな建築に限定され、理論的な進展や技術の開発がないまま、伝統的な「在来工法」によって建設されてきた。設計者は「木」という素材の特性や接合法、架構としての性能評価法などについての知識を身につけなくても、簡単な壁量の計算だけで行政のチェックをくぐりぬけて建設されてきた。

    非住宅の規模の大きな建築を「木」で作ることは簡単なことではない。建築の性能を確認するためには、部材の安全、接合部の安全、架構の安全の3段階での安全確認をする必要があるが、これらの技術を習得する場がないのが現実である。

    これらを総合して意匠性、構造性ともに質の高い建築を提案する能力の涵養が必要である。

技術者がこれらの総合力を習得するのは簡単ではないが、たとえば岐阜の「森林アカデミー」のような素材から設計、計算、加工、建設に至る総合的な教育機関の整備を全国規模で展開することや、学生や社会人がいつでも学べる総合的な資料館の建設などの施策も地味ではあるが継続的に推進することが大切である。

 

⑯補助金行政について

    木造化推進事業を推進するために、補助金行政が大きな役割を背負っていることは周知のところである。補助金にはいろいろな種類の支援が準備されていて、木質の公共建築を建設する際の大部分がこの制度を利用していると思われる。その際の条件としては「県産材」と呼ばれる建設地の山林で出荷される木材の使用がある割合以上あることとされることが多いが、少し規模の大きな建物では「県産材」だけで必要量を賄うことができず、結果的に他の府県からの供給を受けることが多い。これは、林野行政が主に県単位で行われることが多いために、供給母体の能力が小さいためで、県単位で区別することに無理があると言わねばならない。峠の道一本隔てた木材の品質が異なることは不自然である。自然素材である「木」が気候の異なる地域で特性が異なることは自然であり、それ自体意味のあることではあるが、実質的にはもう少し広い地域で纏まって施策が行われる方が利用者側にとって便利であり、施策の効率化に繋がると思う。この小さな国土に50もの都道府県ごとの行政機関や森林組合があること自体非効率である。

    国産材の材料費は輸入材に比べて可なり高額で、強度は可なり低い。関税の自由化が行われると、国産材の競争力は可なり低下する。補助金は、幾らでも、いつまでも続けることは出来ないであろうことを考えるとき、我が国の補助金を前提にしたコストの設定は再考されるべき時に来ていると思う。