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中田雑文集

3)構造設計では何を検討しているのか                         中田捷夫

1.構造設計の内容

 建物の構造設計は大きく「構造計画」と「構造計算」に分けることができます。具体的な作業でいうと「何を作るか」と「どう作るか」ということです。

 

 設計を始めるときに建築家は設計チームを組織します。構造家や構造設計者と呼ばれる人たちが、「何を作るか」のために構造的な視点から提案します。依頼者からの要求条件に応える構造のシステムや材料・構法について調査し、検討して意匠や設備との調整を図ります。建てようとする建物が法律に適合しているかの検討もこの段階で行われます。

 

 意匠・設備を含めた調整が終わると、今度は「どう作るか」の作業に入ります。ここでは3つの項目について調べます。「建物を構成する部材が壊れないか」、「それぞれの部材は堅固に結合されているか」、「組みあがった構造システムが必要な性能を持っているか」です。これらの一連の作業は「構造計算」とよばれ、法律で定められた手順に従って計算によって確認されます。この手順と結果を示した「計算書」が作成されます。これは建物のいわば「性能書」のようなもので、建築基準法や関連法規に適合しているかどうかの審査はこの計算書によって確認されることになります。また、この内容を図式によって表現するために「構造図」が作成されます。これらは建物の性能を現す大切な情報なので、しっかり保管し、理解するように努めましょう。

 

2.構造計画の大切さ

 構造設計の中で「構造計画」はとても大切な作業で、ここで建物の構造システムや目指すべき性能を定め、建物の外郭はほぼ決まってしまいます。「構造計算」は「構造計画」のフォローアップ作業ともいえる作業なのですが、近年の計算法の詳細化によってその作業が膨大になり、「構造計算」があたかも「構造設計」の総てであるかのような錯覚が定着してしまいました。

 

 構造計算の詳細化に伴って計算の自動化が図られ、コンピュータによる計算が日常化するにつれ、「認定ソフト」と呼ばれる計算の道具が普及してきました。法律で計算の手順を認定すると言うこの方法は、改ざんというリスクはあったものの大きな事件もなく、利用者の善意に支えられて普及してきましたが、遂に不幸な結果に至ったことはご承知の通りです。コンピュータの最大の難点は余りにも多くの計算をしてしまうことかもしれません。木構造の釘、鉄筋コンクリート構造の鉄筋、鋼構造のボルトなど、一本一本の応力までが計算できたからとて、決して建物の性能が向上するわけではないのです。建物の設計で最も大切なのは、「在るべきところに必要なものがあること」であり、余りにも詳細な設計で厚い計算書があるからといって、決して安全であることの証明ではないのです。

 法律に適合していることを定められた手順で確認することで構造設計が完結するという現在の方法では、設計者は施主に直接サービスを提供する機会がなく、「コンピュータを正しく使って法律にあっていることを確認した」ことを報告することだけが業務になっています。自分の大切な建物がどんな人によって計算され、誰が安全を保障しているのか確かめてみることも大切です。

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